男子生活

30代既婚男性がカメラ、小説、食事、ファッションに関して記録するブログ

アンドリュー・ヘイ『異人たち』

評価

★★★★☆
★☆☆☆☆・・・最悪
★★☆☆☆・・・おすすめしない
★★★☆☆・・・普通
★★★★☆・・・お気に入り
★★★★★・・・傑作

※ネタバレしているので鑑賞前の方はご注意ください

あらすじ(公式サイトより)
夜になると人の気配が遠のく、ロンドンのタワーマンションに一人暮らす脚本家アダムは、偶然同じマンションの謎めいた住人、ハリーの訪問で、ありふれた日常に変化が訪れる。ハリーとの関係が深まるにつれて、アダムは遠い子供の頃の世界に引き戻され、30年前に死別した両親が、そのままの姿で目の前に現れる。想像もしなかった再会に固く閉ざしていた心が解きほぐされていくのを感じるのだったが、その先には思いもしない世界が広がっていた…

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僕は結婚している。まだ子供はいない。友人は多くはないけれどいる。親と兄弟は元気だ。だけれど最近孤独を感じる瞬間が増えた。
ひとつには友人たちがみな結婚しており、子供が生まれはじめているため、数年前ほど気軽に遊びに誘えないためだと思う。
妻はどうか?もちろん妻と出かけることも多い。彼女と話すのはおもしろい。でも当たり前だけど妻は自分と同じ人間ではない。僕たち夫婦はお互いの趣味に無理に付き合うことはしないので、なんでも妻に付き合ってもらうわけにはいかない。たとえば野球観戦とか。僕は野球をスタジアムで見るのが好きだが、妻と行ったことはない。サッカーはある。サッカーはギリギリ興味があるが、野球には全く興味がないらしい。だからふと野球を見に行きたいなと思ったときに1人で出かけることになり、孤独を感じる。友人と見に行くこともあるけれど、いろいろと準備が大変だ。気軽さはない。映画を見ることも同じような類に入る。妻はNetflixAmazon Primeでは映画を見るが、劇場にはめったなことがないと来てくれない。「料金が高い」と言われる。だから映画は1人で見ることが多い。

 

アンドリュー・ヘイ監督の『異人たち』は予告をYouTubeで見て気になり、前売券を購入していた。
山田太一による原作『異人たちとの夏』も購入し事前に読んだ。大林宣彦監督版の映画は見ておらず、Youtubeで浅草の今半(すき焼き屋)でのシーンを見た。今はヨガマスターと化している片岡鶴太郎が父親役で出演していて驚いた。
僕は数年前まで浅草に住んでいたので、原作は懐かしい気持ちで読んだ。あの場所のこと書いているなあとか。浅草という場所は懐かしいものを想起させる。

 

この映画では主人公と恋人はゲイである。監督もゲイなので、セクシャリティに起因する孤独と両親との葛藤が描かれる。この改変はとても上手く機能していると思う。原作だと主人公が孤独を感じる理由は妻と離婚したことだが、それよりもセクシャリティに関する問題の方が問題はより根深く深刻で長い。主人公は12歳より前から「女のよう」であることを理由に学校でいじめられていたと語る。孤独という本作のテーマがより浮かび上がるように思う。セクシャリティを伝え、受容されることで主人公と両親の邂逅はより意味を持つ。

 

レビューサイトなどを見るとセクシャリティを理由に本作を敬遠している人たちも多数いる。「主人公をゲイにしなくても良いじゃないか。抵抗がある」というようなコメントである。確かに私はストレートなので本作のベッドシーンを見て、初めて映画で男性同士のベッドシーンを見たので、びっくりはした。慣れるまで時間はかかった。でもそこは本質じゃないし、ゲイの人たちは日常的に男性と女性のベッドシーンを見せられているわけで、なんとも言えない気持ちになる。

 

風景の美しさについても触れたい。主人公が住む高層マンションや電車からロンドンの都市風景が映されるが、どれも美しい。今年の年始にロンドンに行ったときのことを思い出す。すっきりとしない天気と大都市なのに感じる静けさ。ビル群と同じくらい存在感のある緑の多さ。ロンドンを思い出すと孤独、内省、癒しといった言葉が浮かぶ。テーマが風景描写でも伝わってくるようだった。

 

誰にだって両親と分かり合えていないことがある。大人になれば独立して別々に暮らすことも多いだろうから問題は棚上げされることが多い。でも両親が生きているのであれば正直に伝えてみること、話し合うことも良いのかもしれない。両親だって子供を育てるのは1回目とか2回目とかだったのだ。上手くできなかったことがあるのは当たり前だと思う。

公開から日がたっているので上映館は限られているがぜひ見てほしい一本である。

映画館 TOHOシネマズシャンテ
スクリーン3
座席:I列
※I列だと少し遠いので、E,F列くらいがおすすめ