男子生活

30代既婚男性がカメラ、小説、食事、ファッションに関して記録するブログ

【感想】川上未映子『黄色い家』 | 一人称による圧倒的ライド感

すごいものを読んだ、というのがまず第一の感想だ。間違いなくこれは傑作だと思う。後ほど詳細に書くが、1人称で書かれていることで、主人公の思考や行動を追体験することになり、胸が痛くて切なくて怖くて動悸がした。
この記事では川上未映子さんの著書『黄色い家』の感想を書いていきたい。面白かったポイントや考えたことを中心に書いていく。ネタバレしているので未読の方は注意していただきたい。

評価

★★★★★
★☆☆☆☆・・・最悪
★★☆☆☆・・・おすすめしない
★★★☆☆・・・普通
★★★★☆・・・お気に入り
★★★★★・・・傑作

あらすじ(公式サイトより)
2020年春、惣菜店に勤める花は、ニュース記事に黄美子の名前を見つける。60歳になった彼女は、若い女性の監禁・傷害の罪に問われていた。長らく忘却していた20年前の記憶――黄美子と、少女たち2人と疑似家族のように暮らした日々。まっとうに稼ぐすべを持たない花たちは、必死に働くがその金は無情にも奪われ、よりリスキーな〝シノギ〞に手を出すことになる。歪んだ共同生活は、ある女性の死をきっかけに瓦解へ向かい......。

著者プロフィール(Amazonより)
大阪府生まれ。2008年『乳と卵』で芥川龍之介賞、09年、詩集『先端で、さすわさされるわそらええわ』で中原中也賞、10年『ヘヴン』で芸術選奨文部科学大臣新人賞および紫式部文学賞、13年、詩集『水瓶』で高見順賞、同年『愛の夢とか』で谷崎潤一郎賞、16年『あこがれ』で渡辺淳一文学賞、19年『夏物語』で毎日出版文化賞を受賞。『夏物語』は40カ国以上で刊行が進み、『ヘヴン』の英訳は22年国際ブッカー賞の最終候補に選出された

1人称のライド感

本作は主人公の花の1人称で書かれている。花の視点で何が起きたか、何を考えたかを書いている。著者の技術があまりにも凄すぎて、読んでいるうちに花と視点が同化していくような感覚を覚えた。FPSのゲームのように。
主人公の花には基本的には共感できない。私は男性だし、花ほど貧乏な家庭で育っていない、夜の仕事で働いたこともないし、家は綺麗に保っていたい、もちろんキャッシュカード詐欺に関わったこともない。
共感はできないのに、1人称だから花と視点が同化していき、花の思考や感情を追体験していくことになる。乗りたくない車に乗って進んでいくように。しかも中盤で花がやっている仕事と共同生活はいずれ破綻することがわかってくる。それからは破滅へ向けてひたすら進んでいくのだ。正直、終盤以降は、「この先どうなるんだろう」という気持ちと怖い気持ちが同居して、読んでいて動悸がした。
ここまで主人公と同化した感覚を覚えた小説は初めてだ。その体験があまりに圧倒的だったので本作の評価を『傑作』とした。

家族のこと

花は、黄美子さん、桃子、蘭と1軒家で共同生活をはじめる。当初は4人でスナック「れもん」を運営して、売り上げで1軒家の家賃を払っていたのだが、「れもん」はある日、家事で建物が焼けてしまう。花は家賃を払い、4人の生活を続けていくために、カード犯罪に手を染めていく。やがて少しでも多くのお金を稼ぐことが目的となり、共同生活を送る3人を支配するようになる。
前述したように、私は花の境遇や考えには共感はできない。ただ、お金を稼ぐということ。それが目的になって家族への思いやりを忘れてしまうというのは自分にも心当たりがある。仕事が生活の中心、価値の中心となってしまい、妻が話しかけてきても時間の無駄だと思ってしまって、適当にあしらった経験がある。一番大事なのは家族との関わりなのに。仕事をしていると仕事が中心になってしまうのは何故だろう。お金を得なければ生活できないこと、生活の中で仕事が占める時間が長いことが理由だろうか。
花も「4人でいること」だけを優先していたら違う結果になったのかもしれない。しかし、花以外の3人の未来を考えていない感じ、やる気のなさを見ると難しかったのかもしれない。

 

ウシジマくん感

本作を読んで雰囲気が似ているなと思ったのは『闇金ウシジマくん』だ。夜の世界が出てくるところだったり、登場人物に教養がなく何も考えていない人が多かったり、読んでいると絶望的な気分になってくるところが似ている。

 

まとめ

読んでいる間は花と無理やり同化させられて、感情を追体験させられる。読むのが非常につらい小説だった。ただ、600ページ近くあるのに2日ほどで読み終わってしまった。傑作といってよい小説なのは間違いない。ぜひ読んでいただきたい。