男子生活

30代既婚男性がカメラ、小説、食事、ファッションに関して記録するブログ

【感想】コルム・トビーン『ノーラ・ウェブスター』

ノーラ・ウェブスター表紙



評価:★★★★☆
★☆☆☆☆・・・途中で読むのをやめた
★★☆☆☆・・・おすすめしない
★★★☆☆・・・普通
★★★★☆・・・お気に入り
★★★★★・・・傑作

 

僕は有名人ではない普通の人が書いたブログを読むのが好きだ。商品のレビューより日々の生活のことが書いてあるものが好ましい。今日はこんなことがあった、こんな気持ちになった、明日からはこうしたい、など。要するに日記を読むのが好きなのだ。

 

普通の人の人生には劇的なことは起きない。発明することもないし、社長になることもないし、テレビに出ることもない。それでも生きていれば日々それなりに色々なことが起きる。受験、就職、結婚、出産。この辺りは大きなイベントだが、最近頭痛がするとか、本を読んだら面白かったとか、応援しているスポーツチームの調子が良いとか、子どもが何を考えているかわからないとか。

 

本書は私が読むのが好きなブログのように、普通の人の大きな事件が起きない人生が描かれている。3年間の期間を430ページにわたって丁寧に書いており、主人公や家族が考えたこと、悩んだことがリアルに伝わってくる。

 

主人公はアイルランドの田舎エニスコーシーに暮らすノーラ・ウェブスター46歳。夫に先立たれたばかりで、4人の子供を抱えている。本書では、夫が亡くなった直後からの彼女の暮らしが3人称で淡々と描かれる。

 

夫に先立たれたばかりで4人の子供を抱えている、と書くとお金がない中で暮らす話になりそうだが、本書はそうではない。
専業主婦だったノーラは結婚前に働いていた会社で事務員として働き始めるし、長女は就職し家にお金を入れてくれるようになる。姉夫婦は裕福でノーラの次女の学費を援助してくれる。ノーラはお金持ちではなく、日々の支出に気を使わなければならないが、困窮しているわけでは全くないのだ。
この辺りの経済状況は多くの人に共感が得られるようになっていると思う。お金持ちすぎて、貧乏すぎで現実感に乏しくならないというか。

 

普通の人の生活を描きながらも、アイルランドにおけるプロテスタントカトリックの関係や、北アイルランド紛争が主人公の視点を通して描かれる。個人の物語を通して大きな物語が描かれるのも好きなポイントだ。僕は『フォレストガンプ』が好きなのだが、『フォレストガンプ』がガンプの人生を描きながらも、歴史上の出来事が彼の人生に大きく関わってくるのに似た感覚だ。

 

430ページとなかなか長い小説だが、幸せな読書を体験することができた。
翻訳も読みやすい。おすすめできる一冊である。

 

読んだ期間:2024/5/7~2024/5/12
ページ数:430